ユーラシア経済調査
カザフスタンとロシア・中国の関係 — 北部のロシア系住民、条約と枠組み、貿易、原油の輸出経路と中央回廊
ロシアと7,591km、中国と1,783kmの国境を接するカザフスタンについて、北部に集まるロシア系住民、ロシアとの同盟条約とユーラシア経済同盟、2013年にアスタナで提唱された「シルクロード経済ベルト」、両国との貿易の比重と統計の食い違い、原油輸出の8割余りを担うCPCパイプラインのロシア経由への依存、2022年以降に中央回廊が伸びた理由とその限界を、統計局・条約の原文・CPC・世界銀行などの資料からまとめる。
本稿は、カザフスタンの基本情報の回に続き、同国と二つの大国、ロシアおよび中国との関係を扱う。カザフスタンは北と西でロシアと7,591km、東で中国と1,783kmの国境を接しており(1)、2025年の財の輸入の29.7%をロシアから、29.2%を中国から得ている(2)。両国との関係は外交の選択に加えて、人口の分布、国境の長さ、輸送路の配置という動かしにくい条件に制約されている。カザフスタン政府はその制約のもとで、複数の大国と同時に関係を保つ「多方位外交(マルチベクトル外交)」をとってきた(3)。以下では、北部のロシア系住民、ロシアとの条約と制度、中国との国境画定から「シルクロード経済ベルト」に至る経緯、両国との貿易、原油輸出のロシア経由への依存、そして2022年以降にカスピ海横断ルート(中央回廊)が伸びた理由を、この順に確かめる。数値はいずれも2026年10月19日に閲覧した公表資料に拠る。
まず、両国との関係の主な節目を表1に並べておく。
表1 ロシア・中国との関係の主な節目
| 年 | ロシアとの関係 | 中国との関係 |
|---|---|---|
| 1992 | 友好・協力・相互援助条約(5月25日)(4) | 外交関係の樹立(1月3日)(5) |
| 1994 | Nazarbayev大統領がモスクワ大学の講演で「ユーラシア連合」を提唱(3月29日)(6)(7) | 国境協定(4月26日、アルマトイで署名。1995年9月11日発効)(8) |
| 1997 | — | 中国石油天然気集団(CNPC)がアクトベムナイガスの株式の約6割を取得(9) |
| 2001 | 上海協力機構(SCO)の設立(6月15日、上海)。両国ともに原加盟国(10) | 同左 |
| 2002 | — | 善隣友好協力条約(12月23日)(11) |
| 2005 | 国境条約(1月18日、モスクワで署名。2006年1月12日発効)(12) | 戦略的パートナーシップ(7月)(5)。CNPC子会社によるPetroKazakhstanの買収合意を発表(8月)(13) |
| 2006 | — | アタス〜阿拉山口の原油パイプラインで最初の原油が中国側に到着(7月)(14) |
| 2009 | — | 中央アジア〜中国ガスパイプラインの開通式(12月)(15) |
| 2011 | — | 全面的戦略的パートナーシップ(5) |
| 2013 | 「21世紀における善隣・同盟条約」(11月11日、エカテリンブルクで署名。2014年12月22日発効)(16) | Xi Jinping国家主席がナザルバエフ大学で「シルクロード経済ベルト」を提唱(9月7日)(17) |
| 2015 | ユーラシア経済同盟(EAEU)の設立条約が発効(1月1日)(18) | 中ロ両国が同ベルトとEAEUの「連結(対接)」で共同声明(5月8日)(19) |
| 2016 | — | 同ベルトとカザフスタンの新経済政策「ヌルリ・ジョル(光明の道)」の連結協力の文書に署名(9月2日)(20) |
| 2019 | — | 「恒久的な全面的戦略的パートナーシップ」(5) |
| 2022 | 1月の騒乱で集団安全保障条約機構(CSTO)の部隊が派遣され、同月19日までに撤収(21) | — |
| 2023 | — | 相互の査証免除協定が発効(11月)(5) |
ロシアとの関係は、条約と同盟の枠組みが独立直後から積み重なってきた。中国との関係は、1990年代の国境画定と安全保障上の信頼醸成に始まり、1990年代末からの石油の上流への出資とパイプラインの建設を経て、2010年代に一帯一路の枠組みのもとで経済の連結が前面に出た。この違いが、以下の各節に共通する背景となる。
北部のロシア系住民
2021年国勢調査によれば、カザフスタンに住むロシア人は298.19万人で、人口の15.5%を占める。2009年の前回調査では379.38万人(23.7%)であったから、12年間で81.18万人、21.4%減ったことになる(22)。それでもロシア人はカザフ人に次ぐ第二の民族集団であり、しかもその分布は大きく偏っている。表2に、州ごとの人口に占めるロシア人の比率と、全国のロシア人に占める各州の比率を示す。
表2 州・都市別のロシア人人口(2021年国勢調査)
| 州・都市(2021年時点の区分) | 人口 | うちロシア人 | 州・都市の人口に占める割合 | 全国のロシア人に占める割合 |
|---|---|---|---|---|
| 北カザフスタン州 | 54.08万人 | 24.06万人 | 44.5% | 8.1% |
| コスタナイ州 | 83.36万人 | 28.06万人 | 33.7% | 9.4% |
| 東カザフスタン州(現在のアバイ州を含む) | 134.13万人 | 43.10万人 | 32.1% | 14.5% |
| パヴロダル州 | 75.68万人 | 22.37万人 | 29.6% | 7.5% |
| カラガンダ州(現在のウリタウ州を含む) | 134.85万人 | 39.17万人 | 29.0% | 13.1% |
| アクモラ州 | 78.30万人 | 21.08万人 | 26.9% | 7.1% |
| アルマトイ市 | 203.03万人 | 41.57万人 | 20.5% | 13.9% |
| 西カザフスタン州 | 67.57万人 | 10.92万人 | 16.2% | 3.7% |
| ヌルスルタン市(現アスタナ) | 123.40万人 | 11.84万人 | 9.6% | 4.0% |
| クズロルダ州 | 81.49万人 | 1.23万人 | 1.5% | 0.4% |
| トルキスタン州 | 205.40万人 | 2.79万人 | 1.4% | 0.9% |
| 全国 | 1,918.60万人 | 298.19万人 | 15.5% | 100% |
出典:2021年国勢調査の州別・民族別人口(22)から筆者が計算。区分は国勢調査の時点のもので、2022年に東カザフスタン州からアバイ州、カラガンダ州からウリタウ州、アルマトイ州からジェティス州が分かれる前のものである(23)。
北カザフスタン州は、ロシア人がカザフ人(37.6%)を上回る唯一の州である(22)。北部・東部・中部の6州(北カザフスタン、コスタナイ、東カザフスタン、パヴロダル、カラガンダ、アクモラ)を合わせると、ロシア人は177.83万人で全国のロシア人の59.6%にあたり、6州の人口の31.7%を占める(筆者の計算)。これに旧首都アルマトイの41.57万人が続く。他方、南部のトルキスタン州やクズロルダ州では、ロシア人は人口の2%に満たない。
この分布と、北部のロシア語話者が多くの民族からなるという構成は、人の移動と人口の喪失が重なった結果である。19世紀末から20世紀初めには、ロシアとウクライナを中心とするヨーロッパ・ロシアから150万人を超える移住者が草原に入植した。1930年代初めの飢饉では約150万人が死亡し、カザフ人の3分の1以上が失われて、カザフ人は自らの共和国のなかで少数派となった(24)。これは比率の分母となるカザフ人の側の減少である。1930年代後半から1940年代には、チェチェン人、イングーシ人、カラチャイ人、クルド人などがソ連各地からカザフスタンへ強制的に移住させられた(25)。これらの人々はロシア人ではない。ただ、2021年の国勢調査でも、ドイツ人の65.8%、朝鮮人の58.4%、ウクライナ人の80.1%が自民族以外の言語を母語と答えている(どの言語かはこの集計では示されていない)(22)。独ソ戦の時期にはヨーロッパ・ロシアから工場が疎開してきた。その数は、数える期間と範囲によって110から300を超えるものまで幅がある(26)。さらに1954年に始まった処女地開拓は、主に北カザフスタンとロシアのアルタイ地方の草原を耕地に変える事業で、事業全体として、主にウクライナとロシア共和国から30万人を超える人がコムソモール(共産主義青年同盟)を通じて募集された(27)。
独立後の1997年に、首都は南部のアルマトイから北部のアクモラ(翌1998年にアスタナと改称)へ移された(28)。この移転の動機に、ロシア語話者の多い北部に対する国家の統合を強める民族的な意図をみる者も多かった(29)。
言語の面では、同じ国勢調査で、カザフ語を「使いこなせる(владеет)」と答えたロシア人は25.1%、日常生活で使うと答えた人は9.3%にとどまり、カザフ人の99.6%と対照的である(22)。2026年の憲法は、国家語をカザフ語と定めたうえで、国の機関と地方自治体ではカザフ語と「並んで(наряду с)」ロシア語が公式に用いられると規定している(第9条)(30)。1995年憲法の第7条は「同等に(наравне с)」と定めていた(31)。この文言の変更について、憲法裁判所のBakyt Nurmukhanov副長官は、用語と意味の統一のための修正だと説明している(32)。
北部のロシア系住民は、両国の政治の言葉のなかにもたびたび現れてきた。2014年8月、ロシアのVladimir Putin大統領はセリゲル湖畔の青年集会で、カザフ人は国家をもったことがなく、それを創ったのはNursultan Nazarbayev大統領である、という趣旨の発言をし、カザフスタン国内で反発を招いた(33)。逆に2022年6月には、Kassym-Jomart Tokayev大統領がサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで、ウクライナ東部のルハンシクとドネツクを「準国家」と呼び、独立国として承認しない考えを示した。Tokayev大統領は、民族自決の原則を世界中に当てはめれば混乱になるとし、カザフスタンが台湾、コソボ、南オセチア、アブハジアを承認していないのも同じ理由だと述べている(34)。特定の地域に集中する少数民族を抱える国として、領土の一体性の原則を優先する立場を示した発言と読むこともできる。ただし、ロシア系住民の存在やロシア語の地位を、そのままロシアの影響力の経路とみなすことはできない。ロシアに有利にみえるカザフスタンの行動には、ロシアの働きかけによるものと、カザフスタンの内部から生じるものとがあり、両者は区別して論じる必要がある(35)。
同じ2022年の秋には、人の流れが逆向きに動いた。ロシアが9月21日に部分動員を発表してから10月4日までに、20万人を超えるロシア市民がカザフスタンに入国し、同じ期間に約14.7万人が出国したと、カザフスタン内務相は述べている(36)。これは入国と出国の件数であって定住者の数ではないが、両国の間の人の移動の規模と速さを示す出来事であった。
ロシアとの条約と制度
ロシアとの二国間関係の基礎は、1992年5月25日の友好・協力・相互援助条約である(4)。2013年11月11日には、エカテリンブルクで「21世紀における善隣・同盟条約」が署名された。この条約で両国は、2005年の国境条約で定めた国境の不可侵を確認し(第2条)、相手国に対抗する陣営や同盟に加わらず、相手国と武力紛争にある第三国を支援しないこと(第3条)、外交政策の調整(第4条)、両国民の自由な移動を含む移民管理の協調(第8条)、少数民族の民族的・言語的・文化的・宗教的な独自性の保護(第9条)を定めた。経済では貿易経済・投資・科学技術の分野での統合的な協力を(第11条)、安全保障では国防・軍事技術の分野での結びつきの深化を(第18条)うたっている。条約は2014年12月22日に発効し、期間は5年で、以後5年ごとに自動的に延長される(第30条)(16)。カザフスタンは2014年11月7日の法律(第246-V号)でこれを批准した(16)。国境については、2005年1月18日にモスクワで国境条約が署名され、カザフスタンは同年12月2日の法律(第92号)で批准し、条約は2006年1月12日に発効した。条約は、現地で国境を標示するために、両国が対等の原則で合同の標定(デマーケーション)委員会を設けると定めている(12)。
多国間の枠組みでは、カザフスタンはユーラシア経済同盟の原加盟国であり、2014年5月29日にアスタナで署名された設立条約は2015年1月1日に発効した(18)。この統合はロシアだけの構想ではない。Nazarbayev大統領は1994年3月29日のモスクワ大学での講演で「ユーラシア連合」を提唱し、統一経済空間の形成と共同防衛政策を担う超国家機関を置く一方、主権、国内の政治体制、各国の外交は不可侵とすると述べた。EAEUの設立が近づいた2013〜2014年には、同盟の政治化は許されず、これは純粋に経済の協力であると繰り返している(6)。その間、2000年10月10日にアスタナでユーラシア経済共同体が設立され、2010年の関税同盟の始動、2012年1月の統一経済空間の諸条約の発効を経て、2014年のEAEU条約に至った(7)。カザフスタンは、経済統合を早くから提唱した国の一つであり、同時にその範囲を経済に限ろうとしてきた当事者でもある。2025年のカザフスタンのEAEU域内貿易は308.93億ドルで、その88.6%がロシアとの取引である(2)。安全保障では、ロシアが主導するCSTOの加盟国であり、2022年1月の騒乱の際には政府の要請で同機構の部隊が派遣され、同月19日までに撤収した(21)。
制度の外側にも、長期の結びつきがある。バイコヌール宇宙基地は、2004年の合意により2050年までロシアに貸与されている(37)。2025年6月には、ロシアのロスアトムがカザフスタン初の原子力発電所を建設する国際コンソーシアムの主導者に選ばれ(38)、2026年9月に建設契約が締結されたと報じられている(39)。
マクロ経済の面でも、ロシアの動きはカザフスタンに直接伝わる。国立銀行は2015年の報告で、貿易総額の約60%を占めるロシア・中国・EUのうち、ロシアの動向の影響がとくに大きいと述べている。2014年末にルーブルが大きく下落すると、ロシア製品がカザフスタン市場で割安になり、2015年初めの物価の伸びを抑える方向に働いた、というのが同行の分析である(40)。
2022年以降、この結びつきには新しい制約が加わった。大統領府の高官は2022年4月、カザフスタンは米国とEUの対ロシア制裁を回避するための道具にはならないと述べ、二次制裁の対象となることを避けたいとの考えを示している(41)。2024年6月に米国がモスクワ取引所を制裁対象とすると、同取引所はカザフスタン証券取引所(KASE)の株式13.1%を保有していたが(42)、同年10月に株主から外れた(43)。
中国との関係 — 国境画定からシルクロード経済ベルトへ
中国とカザフスタンは1992年1月3日に外交関係を樹立した(5)。1990年代の主な課題は国境であり、両国は1994年4月26日にアルマトイで国境協定に署名し(1995年9月11日発効)(8)、残る区間について1997年9月24日(44)と1998年(45)に補足協定を結んだ。並行して、中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンの5か国は、1996年と1997年に国境地帯の軍事的信頼醸成と兵力削減の協定を結び、この首脳会合の枠組みは「上海ファイブ」と呼ばれた。2000年にウズベキスタンが加わり、6か国は2001年6月15日に上海協力機構を設立した(10)。2002年12月23日には、両国の元首が善隣友好協力条約に署名している(11)。中国との関係は、ロシアも加わる多国間の枠組みのなかで、国境と安全保障の問題を片づけることから始まったのである。
経済の結びつきは、2013年の構想より前に、石油の上流とパイプラインから始まっていた。CNPCは1997年の二国間の合意によってアクトベムナイガスの株式の約6割を取得し(9)、2005年8月にはCNPCの子会社がカナダのカルガリーに本社を置くPetroKazakhstanを約41.8億ドルで買収することで合意したと発表された(13)。アタス〜阿拉山口の原油パイプラインでは2006年7月に最初のカザフスタン産原油が中国側の受け入れ地点に届き(14)、2009年12月には、トルクメニスタンからウズベキスタンとカザフスタンを経てホルゴスで中国に入る中央アジア〜中国ガスパイプラインの開通式が行われた。カザフスタン国内の区間は約1,300kmである(15)。
この上に重なったのが、2013年9月7日にXi Jinping国家主席がアスタナのナザルバエフ大学で行った演説である。演説で同主席は、中央アジア諸国とともに「シルクロード経済ベルト」を段階的に築くことを提唱し、その具体策として、政策面の意思疎通、道路の連結(太平洋からバルト海に至る輸送路を開くこと)、貿易の円滑化、通貨の流通、人的交流の強化の五点を挙げた。Nazarbayev大統領はこの構想に全面的に賛同したと、中国外交部は伝えている(17)。その1か月後、同主席はインドネシアで「21世紀海上シルクロード」を提唱し、二つの構想は合わせて「一帯一路」となった(46)。
この提唱の時期は、ロシアとの枠組みづくりと重なっている。2013年9月の演説の2か月後に上述の善隣・同盟条約が署名され、翌2014年5月には同じアスタナでEAEUの設立条約が署名された(16)(18)。中国とロシアは2015年5月8日の共同声明で、シルクロード経済ベルトの建設とEAEUの建設を「連結(対接)」するよう努めると表明し、中国とEAEUの対話の枠組みを立ち上げることを支持した(19)。カザフスタンの側は、2016年9月2日の首脳会談の際に、同ベルトと自国の新経済政策「ヌルリ・ジョル(光明の道)」との連結協力の文書に署名している(20)。二つの大国の地域構想がそれぞれアスタナで形を与えられ、両者の調整もまた外交文書の課題となったことになる。
現在の具体的な結びつきで目立つのは、エネルギーと国境の物流である。カザフスタン〜中国の原油パイプラインを運営する合弁会社は、国営のKazTransOilとCNPCの子会社CNODCが50%ずつ出資する(47)。もっとも、2025年にカザフスタンがこのパイプラインで中国へ輸出した原油は109.4万トンで、原油・ガスコンデンセートの輸出全体の1.4%にすぎない(48)。同じ系統はロシア産原油の中国への通過輸送にも使われている(14)。2025年1〜3月期についてKazTransOilが公表した内訳では、ロシア産の中国向け通過が248万トンであったのに対し、カザフスタン産の中国向け輸出は23.8万トンであった。同社がこの期間に中国方面の系統で運んだカザフスタン産原油は計236.7万トンあったが、その大半の212.9万トンは国内向けの供給である。同記事の見出しにある「中国へ240万トン」は、この国内向けを含む系統全体の値であり、中国向けの輸出量ではない(47)。上流では、CNPCがカシャガン油田を含む北カスピ海の生産分与契約に8.33%の権益をもつ(49)。陸上の物流では、中国との国境のホルゴスにある積み替え拠点が2025年に37.2万TEUを超えるコンテナを扱い(50)、鉄道の国境駅アルティンコル〜ホルゴスでは同年に1,610万トンを超える貨物が運ばれた(51)。金融の面では、2018年に開業したアスタナ国際取引所(AIX)に上海証券取引所が25.1%を出資している(52)。2023年11月には相互の査証免除協定が発効した(5)。
中国との経済関係は、社会の側の摩擦も伴ってきた。2016年4月から5月には、外国人に農地を貸与できる期間を10年から25年に延ばす土地法の改正案に反対する抗議が各地で起き、Nazarbayev大統領は5月5日に改正の実施の凍結を表明した(53)。また、中国の新疆ウイグル自治区には、ウイグル人のほかカザフ人などのムスリムの民族集団が暮らしている。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2022年8月の評価で、ウイグル人と、カザフ人などその他の主にムスリムの少数民族に対して、深刻な人権侵害が行われたと結論づけた。評価の作成にあたっては、カザフ系16人を含む40人への聞き取りが行われている。評価は事前に中国政府に示され、政府の回答が付属文書として添えられている(54)。この評価は中国国内の状況についてのもので、カザフスタン国内でどう受け止められたかは本稿では扱っていない。
貿易 — 二つの統計が示す比重
2025年のカザフスタンの統計局の貿易統計によれば、輸入の相手国はロシア(29.7%)と中国(29.2%)が拮抗し、輸出ではイタリア(19.8%)に次いで中国(19.2%)、ロシア(10.3%)、オランダ(7.6%)の順である(2)。統計局は国別の比率だけを公表しているので、これを輸出・輸入の総額に掛けて金額の目安を求めると表3のようになる。
表3 ロシア・中国との財の貿易(2025年)
| 項目 | ロシア | 中国 |
|---|---|---|
| カザフスタンの輸出に占める割合 | 10.3% | 19.2% |
| カザフスタンの輸入に占める割合 | 29.7% | 29.2% |
| 輸出額(目安) | 約81億ドル | 約152億ドル |
| 輸入額(目安) | 約193億ドル | 約189億ドル |
| 貿易総額(目安) | 約274億ドル | 約341億ドル |
| 相手国側の統計による貿易総額 | 公表されていない | 487億ドル(中国の輸出297億ドル、輸入190億ドル) |
出典:カザフスタン側の比率は統計局(2)。金額は、輸出790.41億ドル・輸入648.47億ドル(速報値)に比率を掛けた筆者の計算で、比率が小数第1位までの公表であるため概数である。ロシアとの総額は、EAEU域内貿易308.93億ドルの88.6%として求めた値とほぼ一致する。中国側の値は中国外交部による中国の統計(5)。
この統計の2025年の断面では、輸出入の合計で中国がロシアを上回る最大の貿易相手であり、ロシアは最大の輸入元である。比率の推移については、本稿では確かめていない。ロシアへの輸出が小さいのは、主力の原油の多くがロシアを通過して欧州などへ向かい、ロシアそのものへの輸出には数えられないためと考えられる。これは筆者の推論だが、輸出先の首位がイタリア、4位がオランダであることとは整合的である(2)。
注意を要するのは、中国側の統計との食い違いである。中国の統計による対カザフスタン輸出297億ドルに対し、カザフスタンの統計による中国からの輸入は約189億ドルで、前者が約1.6倍大きい(5)(2)。国連統計部は、二国間の貿易統計が一致しない主な理由として、輸出と輸入で相手国の帰属の基準が異なること、輸入はCIF(運賃・保険料込み)、輸出はFOB(本船渡し)で評価されること、一般貿易方式と特別貿易方式の違いを挙げ、ほかに第三国を経由する貨物、再輸出の把握の不足、計上時期のずれなどを挙げている(55)。ただしCIFとFOBの違いは輸入側の値を大きくする方向に働くので、この方向の差はそれでは説明できない。中央アジアについては、世界銀行の研究が、中国から入りバザールを通じて取引される消費財の多くが、担ぎ屋貿易に寛容な制度や密輸の黙認のために、カザフスタンとキルギスの輸入統計に記録されてこなかったことを、相手国側の輸出統計との照合から示している(56)。もっとも、この研究は2000年代後半(2005〜10年)を対象としており、現在の差のうちどれだけがこうした要因によるのかは、公表された集計値からは確かめられない。本稿では、差があるという事実と、二つの値の両方を示すにとどめる。ロシア側については、連邦税関庁が2022年2月以降、国別の貿易統計の公表を止めており(57)、相手国側の統計で照合する手段がない。
原油の輸出経路 — CPCへの依存
カザフスタンの原油輸出を支えるのは、カスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)のパイプラインである。CPCは1992年7月17日にカザフスタンとオマーンが設立協定に署名し、その1か月後にロシアが加わって発足した。1996年には主要な石油会社8社が参加し、1999年5月12日に建設が始まり、2001年10月13日にノヴォロシースク近郊の海上ターミナルで最初のタンカーへの積み込みが行われた(58)。パイプラインはカザフスタン西部のテンギスから黒海沿岸まで1,511kmで、輸送能力は2018年の拡張で年6,700万トンとなった(59)。その後の能力増強計画によって、カザフスタン国内で年7,250万トン、ロシア国内で年8,200万トンまでの輸送が技術的には可能になっている(60)。2025年9月1日には、操業開始以来の積み出しが通算10億トンに達した(58)。
株主の構成は、ロシア連邦(Transneftが受託管理)が24%、カザフスタンの国営石油会社KazMunayGasが19%、Chevronの子会社が15%、LUKOIL Internationalが12.5%、Mobil Caspian Pipeline CompanyとRosneft-Shell Caspian Venturesが各7.5%、IC CPC Companyが7%、BG Overseas HoldingとEni Internationalが各2%、Kazakhstan Pipeline VenturesとOryx Caspian Pipelineが各1.75%である(61)。国家とその受託者の持分に限って足し合わせると(筆者の計算)、ロシア側はロシア連邦の24%とIC CPC Companyの7%で31%、カザフスタン側はKazMunayGasの19%とKazakhstan Pipeline Venturesの1.75%で20.75%となる(62)。これとは別に、ロシア企業LUKOILの子会社が12.5%、Rosneftが出資するRosneft-Shell Caspian Venturesが7.5%をもつ(61)。カザフスタンの原油を運ぶパイプラインでありながら、その経路と海上ターミナルはロシア領にある。
2025年の原油・ガスコンデンセートの輸出経路を表4に示す。
表4 カザフスタンの原油・ガスコンデンセートの輸出経路(2025年)
| 経路 | 輸出量 | 輸出全体に占める割合 |
|---|---|---|
| CPC(ロシア領を経てノヴォロシースクへ) | 6,480万トン | 82.2% |
| アティラウ〜サマラ(ロシア領のパイプライン網へ) | 930万トン | 11.8% |
| アクタウ港(カスピ海の海上輸送) | 347万トン | 4.4% |
| 中国向けパイプライン(アタス〜阿拉山口) | 109.4万トン | 1.4% |
| 鉄道 | 99万トン | 1.3% |
| 合計 | 7,880万トン |
出典:エネルギー省の資料を伝える報道(48)。割合は総輸出量に対する筆者の計算。経路別の値を足すと7,965万トンとなって総輸出量の7,880万トンを上回り、割合の合計も約101%になるが、原資料のまま示す。CPCの値は、政府が別に発表したCPC経由のカザフスタン産6,380万トン(63)より100万トン大きい。
CPCとアティラウ〜サマラの二つを合わせると、輸出のうちロシア領を通った分は9割強となる。表4の値では7,410万トンで94%、CPCの値に政府発表の6,380万トンを使えば93%である(筆者の計算)。アティラウ〜サマラの930万トンのうち214.6万トンは、ロシアのドルジバ・パイプラインでドイツへ送られ、この量は前年から44%増えた(48)。もっとも、エネルギー相は2026年4月、ロシア側から公式の通知はなく、非公式の情報によれば技術上の理由で送れないとされているとして、5月分のドイツ向けの通過量はゼロだと述べた(64)。経路が一国の領土に集中していることの危険を示す一例である。ロシアを通らない経路は、アクタウ港からカスピ海を渡り、アゼルバイジャンのバクー〜トビリシ〜ジェイハン(BTC)パイプラインに入るものが中心である。この経路の輸送量は2023年に105.7万トン、2024年に140万トンであり(65)、報道によれば2025年は前年比11%減であった(48)。なお、CPCは2025年に全体で7,050万トンを積み出し、うちカザフスタン産は6,380万トンであったと政府は発表している(63)。CPCの輸送量にはロシアの生産者の原油も含まれる。
この経路の集中は、2022年以降、具体的な供給の中断の危険として表に出るようになった。2022年7月5日、ノヴォロシースクの地区裁判所は、運輸監督庁(Ространснадзор)の申し立てを一部認め、原油流出事故への対応計画をめぐる書類上の違反を理由に、CPCのロシア側の事業体に30日間の事業停止を命じた(66)。同月、上級のクラスノダール地方裁判所はこの処分を20万ルーブルの罰金に改めた(67)。Tokayev大統領はこの間の7月7日に、カスピ海横断ルートを「優先」と位置づけ、KazMunayGasに対し、テンギス油田の出資者を引き込むことも含めて、その実現の最善の方法を探るよう指示している(68)。
2025年からは、ロシアとウクライナの戦争の影響が施設そのものに及んでいる。2025年2月17日にはロシア南部のクロポトキンスカヤのポンプ場が無人機の攻撃で損傷し、技術的な送油の態勢での再開を経て、5月23日に通常の運転に戻った。同年11月29日には、海上ターミナルの一点係留ブイ(SPM-2)が水上無人機の攻撃で大きく損傷した(69)。カザフスタン外務省は翌30日に声明を出し、これは「専ら民生用の施設」に対する3度目の攻撃であるとして抗議し、ウクライナとの二国間関係を損なう行為とみなすと述べた(70)。2026年には、1月から9月にかけて、ターミナルに向かうタンカーや積み込み中のタンカーが攻撃や被弾を受ける事案(1月、3月14日、7月)が相次ぎ、8月14日にはカザフスタン産の原油も扱うノヴォロシースクのロシア側のシェスハリス・ターミナルで積み込みが止まった(69)。9月8日にもCPCのターミナル付近での無人機の事案により、SPM-2とSPM-3での積み込みが一時中断している(62)。エネルギー相は、1月と7月の事態によって350万トンの生産が失われたとして、2026年の生産計画を9,800万トンから9,600万トンに引き下げると述べている(62)。
中央回廊が伸びた理由
中国と欧州の間の陸上輸送では、ロシアとベラルーシを通る「北方ルート」が長く主役であった。世界銀行の2023年の報告によれば、2019〜2021年の中国〜欧州の陸上輸送の86%超を北方ルートが担い、カスピ海を渡る中央回廊の輸送能力は全体の1%にも満たなかった(71)。中央回廊は、カザフスタンからカスピ海を船で渡り、アゼルバイジャンとジョージアを経て黒海やトルコへ抜ける経路で、カザフスタンの政府はこれを「カスピ海横断国際輸送路」と呼んでいる。
2022年2月のロシアのウクライナ侵攻の後、この構図が変わった。同報告は、欧州の多くの荷主と輸送事業者が、ロシアの行動への抗議と、ロシア領を通る貨物に保険を付けることの難しさの両方から、ロシア領を経由する輸送を避けるようになり、2022年3月以降、カスピ海経由の選択肢が相対的に魅力を増したと説明する。中央回廊のコンテナ輸送量は2022年に前年比33%増えた。ただし重量でみた中央回廊の貿易量の伸びは、2021年から2022年にかけて10%にとどまっている(71)。カザフスタンの政府によれば、同ルートの輸送量は2020年の80万トンから2024年の450万トンへ増え(72)、カスピ海横断ルートを通過したコンテナは2022年から2025年までに3.8倍となった(73)。ここでの世界銀行の説明は2022年の伸びについてのものであり、2024年以降の伸びには別の要因も重なりうる。本稿はそれぞれの要因の寄与を分けていない。
ただし、急増した需要に対して、回廊の運営は追いつかなかった。世界銀行の同じ報告によれば、回廊の技術上の運営能力に達していたわけではなかったが、国境の通過、積み替え、関係者間の調整の問題から大きな遅れが生じた。2022年にカザフスタンのドスティクやホルゴスからルーマニアのコンスタンツァまで中央回廊で貨物を運ぶには50日を超え、北方ルートの約2倍を要した。運営の非効率と高い費用のため、2023年3月までには増えた貨物のかなりの部分が海上輸送などへ戻り、2023年1〜8月のコンテナ輸送量は前年同期を37%下回った(71)。2022年11月には、アゼルバイジャン、ジョージア、カザフスタン、トルコの4か国が優先的な投資と措置を並べた「ロードマップ」に署名している(71)。同報告は、インフラ整備が実現すればカスピ海を渡る貨物は2030年に1,100万トンを超え、2021年の約3倍になると試算する一方、それでも中国〜EU間の貿易のうちカスピ海を経由するのは約1%にとどまるとみている(71)。カザフスタン政府は、同ルートの現在の輸送能力を約600万トン・コンテナ18.2万個とし、2030年に1,000万トンへ引き上げる計画を示している(72)。
中央回廊が伸びたのは、したがって、新しい経路が既存の経路より安く速くなったからではない。ロシア領を通ることの政治的・保険上の費用が上がり、相対的な位置が変わったためである。なお、2025年の重量ベースの輸送量(トン数)については、報道と政府関係の発表とで値が食い違っており、本稿では用いない。上記の3.8倍はコンテナの数についての値である。
筆者の見方
中央アジアをめぐる大国の関係を論じた研究のなかで、Alexander Cooleyは、米国・ロシア・中国の三国の競合を論じ、ロシアが地域での政治的な影響力を、中国が資源へのアクセスと新疆の安定を求めてきたこと、そして中央アジアの政権が大国の競合を政権の存続や利得のために利用してきたこと(「ローカル・ルール」)を描いた(74)。同書は一帯一路と2022年より前の著作である。本稿はロシアと中国について、原油の輸出経路という一点に絞ってこの見取り図を確かめる。
筆者は、少なくとも2030年ごろまでは、カザフスタンの原油の輸出経路がロシア領に依存する構図は大きくは変わらないとみている。これは輸送の構造についての見方であって、特定の企業や市場で取引される資産についての見通しではない。また、範囲は原油の輸出経路に限られる。ガスについては、2009年に開通した中央アジア〜中国ガスパイプラインがカザフスタンを通っており(15)、中国はすでに輸送路の当事者となっている。
原油についてそう考えるのは、まず規模の差による。2025年の原油・ガスコンデンセートの輸出のうち、ロシア領を通った分は9割強(93〜94%)である。ロシアを通らない経路の実際の量は、アクタウ港からの海上輸送が347万トン、中国向けのパイプラインが109.4万トンで(48)、BTC経由は2024年で約140万トンであった(65)。BTCに入る原油は主にアクタウ港などからカスピ海を渡るので、アクタウ港の量と重なる部分がある。また、アクタウ港は2025年、BTCは2024年の値であり、両者を足し合わせることはできない。これに対してCPCだけで6,480万トンを運んでおり(48)、規模は一桁違う。しかもCPCの施設と株主の構成は、1990年代以来の長期の投資と契約に支えられている(58)(61)。
この見方が誤りとなる条件も、数値で示しておく。2030年ごろまでに、表4のアクタウ港・中国向けパイプライン・鉄道のうちロシアを通らない分の合計が年1,000万トン(輸出全体の1割強。2025年は鉄道をすべて含めても多くとも約555万トン)を超えるか、CPCの長期の停止によって輸出の配分が組み替わるなら、構図は変わったとみるべきである。この1,000万トンは原油についての目安であり、前節の中央回廊の全貨物の能力目標(2030年に1,000万トン)とは別のものである。そうした変化を後押しする材料はある。2022年以降、政府は経路の分散を政策の優先事項として明示しており(68)、2025年以降の施設への攻撃は、経路の集中のもつ危険を実際の生産の損失として示した(62)。2026年4月に予告されたドルジバ経由のドイツ向け通過の停止も同じ方向の経験である(64)。原油の場合は、カスピ海のタンカーとBTCの能力、そしてテンギスやカシャガンの出資者の判断が鍵になる。貿易全体では中国の比重がすでに大きいとしても、原油の輸出経路の面では、上記の数値がその変化を測る目安となる。
統計と資料の読み方
本稿で用いた主な資料の所在を表5にまとめる。
表5 主な資料の所在
| 対象 | 資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 民族構成・言語 | 統計局の国勢調査(stat.gov.kz) | 州別の値は2021年時点の区分。2022年の州の分割の前のもの |
| 貿易の相手国 | 統計局の貿易統計 | 国別は比率だけの公表。速報値は改定される |
| 中国側の貿易 | 中国の統計(中国外交部の国別資料などで紹介) | カザフスタン側と大きく食い違う |
| ロシア側の貿易 | 連邦税関庁 | 2022年以降、国別の公表が止まっている |
| 原油の輸出経路 | エネルギー省、CPC、KazTransOil の発表と、それを伝える報道 | CPCの輸送量はロシア産を含む。経路別の値は定義によって異なる |
| 中央回廊 | カザフスタン政府の発表、世界銀行の報告 | 重量(トン)と、コンテナの個数およびTEUが使われ、年によっては値が食い違う |
| 条約・協定 | 批准法(adilet.zan.kz、zakon.uchet.kz など)、中国外交部の条約集 | 1992年の条約は報道に拠った |
これらの数値を読む際には、少なくとも三つの点に留意する必要がある。第一に、貿易の相手国の比重は、どちらの国の統計を使うかで大きく変わる。中国との貿易総額は、カザフスタンの統計では約341億ドル、中国の統計では487億ドルである。第二に、原油の「ロシア経由」の比率は、CPCだけをみれば約8割、アティラウ〜サマラを加えれば9割を超える。どの経路までを数えた値かを確かめる必要がある。第三に、北部のロシア系住民についての州別の値は2021年の国勢調査が最新であり、その後の人の移動は反映されていない。本稿は、ロシア語・英語・中国語で公表された資料と、それを伝える報道に拠っており、カザフ語のみで公表される資料は扱っていない。本系列では数値に閲覧日を付し、改定に応じて更新する。
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