ユーラシア経済調査
アルメニアの対外経済関係 — 輸出入・デジタル・人材・資本の観点から
アルメニアの対外経済活動から生まれた付加価値は、どれだけ国内の新規産業や需要を生み出しうるのか。2022年以降の再輸出の膨張と縮小、ICTサービス輸出と知的財産使用料からみたデジタル収支、IT人材の流入と賃金・住宅価格、送金・直接投資・銀行部門の資本の出入りと対外債務、海外で資金を調達する企業の構造を、中央銀行・IMF・世界銀行などの資料から読み、統計の限界とあわせて筆者の見方を示す。
本稿は、アルメニアの対外経済活動から生まれた付加価値が、どれだけ国内の新規産業や需要を生み出しうるのかを問う。2022年以降、アルメニア経済には外から大量の財・人・資金が流れ込み、その一部は短期間で流れ出ていった。同じ「輸出」「送金」「投資」の数字でも、国内で生産されたものが外へ出ているのか、国を通過しただけなのか、国内に残るのは賃金なのか利潤なのかによって、問いへの答えは大きく変わる。本稿は、財の輸出入、デジタル収支、人材の出入り、資本の出入り、海外で資金を調達する企業の構造の五つの面からこの区別を試み、最後に筆者の見方を示す。国の基本的な情報は前稿「アルメニアの基本」にまとめてあり、本稿はそれを前提とする。数値はいずれも2026年10月22日に閲覧した公表資料に拠る。
国際収支の全体像
はじめに、IMFの審査報告書に収録された国際収支表から、2022〜2025年の主要な項目を表1に示す。IMFの表の脚注は、この表の形式をBPM5としている(1)。金融収支の項目は、資金の純流入をプラス、純流出をマイナスで示すIMFの表の符号に従っている。BPM6の標準的な表示は金融資産の純増から負債の純増を差し引いた値で、資金の純流出がプラスになるため、符号が逆になる(2)。
表1 アルメニアの国際収支(億ドル)
| 項目 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|
| 財の輸出 | 59.1 | 88.7 | 132.2 | 85.3 |
| 財の輸入 | 77.2 | 112.9 | 154.1 | 115.9 |
| サービスの輸出 | 44.3 | 58.5 | 58.6 | 61.2 |
| サービスの輸入 | 27.3 | 37.7 | 43.9 | 46.5 |
| 第一次所得(純) | −4.9 | −6.3 | −9.1 | −8.7 |
| 第二次所得(純) | 7.3 | 3.0 | 4.5 | 3.5 |
| うち民間(主に労働者の送金) | 8.0 | 5.2 | 4.3 | 4.1 |
| 経常収支 | 1.4 | −6.7 | −12.0 | −21.1 |
| (GDP比) | 0.7% | −2.8% | −4.6% | −7.2% |
| 直接投資(純) | 9.3 | 5.3 | 0.8 | 3.5 |
| 証券投資(純) | −13.6 | 0.4 | −1.6 | 2.4 |
| 誤差脱漏 | 0.6 | 2.5 | 5.3 | 8.2 |
| 外貨準備(年末) | 41.1 | 36.1 | 36.9 | 50.8 |
| 対外債務(GDP比) | 76.4% | 64.0% | 62.2% | 57.7% |
出典:IMFの審査報告書の国際収支表(Table 2)(1)。百万ドル単位の値を筆者が億ドルに換算した。2025年の値は推計を含み、改定されうる。
財の輸出入は2024年にかけて急膨張し、2025年に急縮小した。これに対してサービスの輸出は2023年以降ほぼ横ばいで、財ほど大きく振れていない。経常収支は2022年の黒字から2025年のGDP比7.2%の赤字へと悪化した。IMFは2025年の赤字について、国内需要の強さと、ウクライナでの戦争の開始後に増えた通過貿易の減少が続いたことを反映したものと説明し、直接投資(6.05億ドル)、銀行の長期借入(6.5億ドル)、ドラム建て国債の購入(7.31億ドル)、そして8.16億ドルの誤差脱漏などの資本流入が赤字を上回ったとしている。その結果、中央銀行は2025年に約18億ドルの外貨を買い入れた(1)。ここでいう通過貿易は、IMFが前年の報告書で「transit trade (re-exports)」と書いているとおり、再輸出を指す(3)。なお、本文の直接投資6.05億ドルと表1の直接投資(純)3.53億ドルが異なる理由は、報告書からは確かめていない。
財の輸出入 — 再輸出と国内生産を分けて読む
財の輸出は2022年の59.1億ドルから2024年の132.2億ドルへと2倍を超えて増え、2025年には85.3億ドルに戻った(1)。前稿の表2で示したとおり、この膨張の中心は真珠・貴石・貴金属であり、その輸出に占める比率は2022年の18.3%から2024年の61.3%に上がった(4)。
その中身は、税関の資料を伝える報道から確かめられる。2024年上半期にアルメニアから輸出された金は41億ドル(59トン)で、その64%がアラブ首長国連邦に、残りが香港と中国に向かった。同じ期間の金の輸入は44億ドルにのぼり、それは加工前の金で、ほぼすべてがロシアから輸入されたものであった(5)。輸入した金をほぼそのまま輸出する取引は、輸出額と輸入額の両方を同時に押し上げるが、国内に残る付加価値は売買の差益と物流・金融の手数料にとどまる。IMFも、2024年の経常赤字の拡大を説明するなかで、通過貿易、すなわち再輸出が2024年後半に大きく縮小したことを挙げている(3)。
2025年の輸出の内訳は、この区別をさらにはっきりさせる。統計委員会の数値を伝える報道によれば、2025年の輸出は84億ドルで前年比36.1%の減少であった。品目別では、金・ダイヤモンド・銀などを含む貴石・貴金属が28億ドル(64.5%減)に縮んだ一方、銅精鉱を含む鉱産物は13億ドル(18.9%増)、加工食品は約13億ドル(28.7%増)であった。携帯電話や家電製品を含む機械・設備は13億ドル(0.3%減)とほぼ横ばいで、車両は9,100万ドル(35.2%減)に減っている(6)。世界銀行の月報によれば、貴金属・宝石を除いた2025年の輸出は前年比8.9%の増加である(7)。
国内で生産された財の規模については、経済省の主張では、2025年に増えたのはアルメニア原産の輸出だけであり、その額は45億ドルで前年より約10%増えた(6)。単純に比べれば、輸出総額84億ドルのうち原産品は5割強(約54%)で、残りの約39億ドルは原産品と認定されなかった分ということになる。ただし、経済省の「原産」の定義は本稿では確かめていない。機械・設備の輸出にも、輸入品の再輸出が含まれうる。
鉱業では、新しい金鉱山の生産が2026〜27年の成長率を累計で約1.25ポイント押し上げると、IMFは見込んでいる(1)。これが実現すれば、再輸出の金に代わって、国内で採掘された金が輸出に加わることになる。統計の上では同じ「金の輸出」であっても、国内に残る付加価値はまったく異なる。
サービス収支とデジタル収支
サービスの輸出は2023年以降、58〜61億ドルでほぼ横ばいである(1)。IMFは2024年について、2022年以降に増えた非居住者と観光客の到着が縮小し、サービス収支の黒字も縮んだと説明している(3)。
本稿では、デジタル収支を、BPM6のICTサービス(通信サービス、コンピュータサービス、情報サービス)と、知的財産使用料の受取・支払の組み合わせとして捉える。ただし、二つの項目の境界は、ソフトウェアの仕事が受託か自社製品かという区別とは一致しない。BPM6では、注文に応じて開発したソフトウェアだけでなく、ダウンロードなどで提供される既製ソフトウェアの販売と使用許諾(定期の使用料か一回払いかを問わない)、アプリケーションの提供とホスティングも、コンピュータサービスに計上される。知的財産使用料に入るのは、特許・商標・フランチャイズなどの使用料と、ソフトウェアについては複製や頒布を許諾する対価である(BPM6の10.137〜10.138項、表10.4、10.143〜10.145項)(2)。したがって、アルメニアの企業が自社製品のソフトウェアを国外の利用者に販売・提供しても、その収入の多くはコンピュータサービスの輸出として計上される。
表2 デジタル関連の受取と支払
| 項目 | 2019年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ICTサービスの輸出(億ドル) | 2.6 | 3.8 | 10.5 | 15.9 | 18.1 | 17.7 |
| 知的財産使用料の受取(万ドル) | — | — | — | — | 2,449 | 1,952 |
| 知的財産使用料の支払(万ドル) | — | — | — | — | 3,042 | 571 |
出典:世界銀行のデータベース(国際収支ベース)(8)(9)(10)。ドル単位の値を筆者が換算した。「—」はデータベースに値がないことを示す。ICTサービスの輸出は世界銀行の系列(BX.GSR.CCIS.CD)の値で、世界銀行の定義では通信サービスに郵便・クーリエのサービスを含む。BPM6では郵便・クーリエは輸送サービスに分類されるため(10.82項)(2)、BPM6のICTサービスとは範囲が一致しない。
ICTサービスの輸出は、2021年の3.8億ドルから2024年の18.1億ドルへと4倍を超えて増え、2025年は17.7億ドルとやや減った(8)。同じデータベースのサービスの輸出総額(2024年に58.5億ドル)に対する比率は約31%である(筆者の計算)(11)。これに対して、知的財産使用料の受取は2024年に約2,450万ドル、2025年に約1,950万ドルで、ICTサービスの輸出の1%強である(9)。先に述べた計上の区分を踏まえると、この小ささが示すのは、アルメニアのデジタル関連の受取がソフトウェアの複製・頒布の許諾や特許の使用料ではなく、コンピュータサービスとして計上される取引で占められているということだけである。製品の知的財産が国外に帰属していることの根拠にはならない。なお、知的財産使用料はデータベースに2024年以降の値しかなく、支払が2024年の約3,040万ドルから2025年の約570万ドルへと大きく変わっている理由も本稿では確かめていない(10)。ICTサービスの輸入については、本稿で確かめた資料に年次の値がなかったため、デジタル収支の輸入側は示していない。
IT産業の輸出の規模は、統計によって大きく異なる。German Economic Team(GET)は、税務当局の企業データから2024年のICTサービスの輸出を20.34億ドルと推計し、国際収支の公式値(11.81億ドル)と比較している(12)。GETの推計は、税務データを企業の業種(NACE)で集計した産業ベースの値であり、取引の種類で分類する国際収支とは概念が異なる。GETが引いた公式値は、世界銀行のデータベースにある国際収支ベースの値(18.1億ドル)とも一致しない。その理由は本稿では確かめていない。GETの推計は、世界銀行の値に対しては約1.1倍、GETが引いた公式値に対しては約1.7倍にあたる(筆者の計算)。IMFも、アルメニアで登録されたIT企業の国境を越えた活動と、サービス輸出の把握を改善する作業が当局と進められていると記している(3)。いずれにしても、GETの推計は国際収支ベースの値の約1.1〜1.7倍にあたり(筆者の計算)(12)(8)、IT産業の輸出の水準はどの統計を使うかで大きく変わりうる。
暗号資産の国際取引については、中央銀行の公表する国際収支の表に独立した区分を確認できない。国際収支マニュアル第7版(BPM7)の草案のうち、BPM6からの変更点をまとめた附属資料は、対応する負債をもたず、一般的な交換手段として、またはプラットフォームやネットワークの内部の交換手段として設計された暗号資産(ビットコインなど)を非生産非金融資産とし、資本勘定の独立した区分に計上するとしている。対応する負債をもつ暗号資産は金融資産として扱われる。同じ資料は、暗号資産がまだ新しいことから、その分類を今後の研究課題に残している(13)。確定版の本文は本稿では確かめていない。制度面では、アルメニアは暗号資産法を制定し、IMFはこれを、金融犯罪から市場の健全性、消費者保護までのリスクに対処しつつ、法的安定性と産業の発展との均衡を図るものと評価している(3)。ステーブルコインの規則は、2026年4月の構造指標としては期限までに採択されず、財務省と中央銀行が草案をIMFと共有した段階にある(1)。
人材の出入り
2022年以降のアルメニア経済の拡大について、IMFは、ロシアからの外貨・移住者・企業の流入に押し上げられ、過去3年間の実質成長率が年平均8.9%に達したと説明している(3)。IMFの主要指標表では、人口に対する純移民の比率は2022年に0.3%、2023年に2.5%で、2024年と2025年はいずれも−0.6%である(1)。2023年の値には、前稿で述べたカラバフからの難民の流入が含まれるとみられる。IMFは、難民とロシアからの移住者によって生産年齢人口が押し上げられた一方、若年層を中心とする構造的な失業、技能の不一致、労働参加率の低さが続いていると指摘する(3)。
IT産業の雇用は、この流入を最もはっきり映している。GETの推計では、IT部門の雇用者(給与所得者)は2021年の1.90万人から2023年の3.67万人へ増えたのち、2024年は3.65万人と横ばいになった。個人事業主は同じ期間に1,139人から7,878人へ増え、両者を合わせた約4.4万人が全雇用に占める比率は、2021年の1.9%から2024年の3.8%に上がった(12)。2021年の1.9%はGETのグラフの値である。GETは同じ頁の要約で2021年を3.0%と書いているが、グラフでは3.0%は2022年の値にあたる。GETは、ロシアから来たIT技術者の一部が、とくに個人事業主として国内の労働市場に組み込まれた可能性が高いとみている。
賃金への影響も大きい。IT部門の月平均賃金は2021年の1,323ドルから2024年の2,578ドルへほぼ倍増し、経済全体の平均(731ドル)の3.5倍となった。ドル建ての伸びにはドラムの上昇も寄与しており、ドラム建ての伸びは同じ期間に52%である(12)。もっとも、賃金の上昇はIT部門に限られない。GETのグラフによれば、経済全体の月平均賃金も2021年の405ドルから2024年の731ドルへ約8割上がっており、IT部門の伸び(約95%)との差は大きくない(12)。経済全体の名目賃金の伸びは、2022年に15.3%、2023年に14.7%と高く、2024年に6.4%、2025年に5.6%へ鈍った。この間、失業率は2022年の13.5%から2025年の13.0%へとわずかしか下がっていない(1)。賃金が広く上がる一方で失業が減らないことについて、IMFは、若年層を中心とする構造的な失業と技能の不一致を挙げている(3)。
住宅価格にも流入の影響が現れた。IMFは、ウクライナでの戦争の開始後にロシアからの移住者が到着し、2023年からはカラバフのアルメニア人難民が流入したことで、2022〜24年に住宅価格が大きく上昇したと説明する。その後、エレバンのアパートの1平方メートルあたりの平均価格は、2025年7月に、前年同月比の上昇が50か月続いたのち下落に転じた(3)。
国外で働く側の流れもある。国際収支の個人送金(受取)は、個人間の移転、純額の雇用者報酬、家計間の資本移転からなる。純額の雇用者報酬は、国外で働いて得た報酬から、就労先で納めた税・社会負担と、短期の労働者の旅費などを差し引いた額である(BPM6の付録5、A5.10〜A5.12項)(2)。この雇用者報酬には、国外での短期の就労による所得のほか、国外の雇用主にリモートで雇われて国内で働く居住者の報酬も含まれる。他方、個人事業主として国外の顧客にサービスを提供して得た対価は個人送金に含まれず、サービスの輸出に計上される(同A5.13項)。世界銀行のデータベースによれば、個人送金の受取は2021年の15.6億ドルから2022年に21.2億ドルへ増え、2024年に14.0億ドルまで減ったのち、2025年は15.7億ドルであった(14)。このうち個人間の移転は2025年に9.9億ドルであるから(15)、残りの約5.8億ドルは主に純額の雇用者報酬にあたる(筆者の計算)。同じ計算で、この差額は2022年に約9.2億ドル、2023年に約6.4億ドル、2024年に約5.1億ドルであり、2025年の値は2022年の6割強である。2022年のドル建ての値は、ロシア・ルーブルの上昇の影響も受けているとみられる。
制度の面では、2025年から2031年までを期間とする「ハイテク産業への国家支援」に関する法律が施行され、一定の要件のもとで、売上高の1%の課税で利潤税(18%)と付加価値税(20%)を代替する措置、専門職と研究開発の人材の給与に対する10%の所得税、労働移民について納付された所得税の60%を補塡する措置などが設けられている(12)。IT部門が納めた税は2024年に3.87億ドルで税収全体の6.3%を占めたが、これは粗付加価値に占める比率(8.3%)より低い(12)。
資本の出入り — 送金・直接投資・証券投資・対外債務
資金の流れを読む際にまず注意すべきは、二つの「送金」の統計が別物だということである。中央銀行が毎月公表する「商業銀行を通じた個人の送金」は、性質を問わず個人名義で国境を越えた送金のすべてを含み、送金事業者を通じたものも含む。そのうち「非商業目的」の送金は、生活費の援助や寄付、手当・年金など、対価のない資金を指し、不動産の購入のための資金は除かれる(16)。これに対して、国際収支の個人送金は、前節で述べたとおり、個人間の移転、純額の雇用者報酬、家計間の資本移転からなる。前者には、貿易や投資の決済に伴う個人名義の資金も混じりうる。
2022年に銀行を通じてアルメニアに送られた資金は51.9億ドルで、うち36億ドルがロシアからであった。同じ年に個人が銀行を通じて国外へ送った資金は26.07億ドルであり(17)、差し引きの純流入は約25.8億ドルとなる(筆者の計算)。受取の総額どうしで比べると、銀行を通じた送金の51.9億ドルは、同じ年の国際収支の個人送金の受取(21.2億ドル)の2倍を超える。この差は、両者の定義の違いの大きさを示している。その後、世界銀行の月報によれば、非商業目的の送金の純流入は2025年に7.14億ドルで、前年から53.5%増えたものの、2023年の8.80億ドルを下回った。2025年12月には、ロシアからの流入が全体の52%を占めた(18)。
直接投資の純流入は、2022年の9.3億ドルから2024年の0.8億ドルへ急減し、2025年は3.5億ドルであった(表1)(1)。IMFによれば、2024年のアルメニアの対外負債のうち直接投資が占める比率は約35%で安定している。2024年の対外純資産はGDP比−48.5%で、総負債(同85.6%)の大半、すなわち同63.9%は債務性の負債であった(3)。ただし、直接投資のうち親子会社間の貸借は債務性の負債にも数えられるため、二つの比率は一部が重なる。統計委員会の外国投資の統計を伝える報道によれば、外国からの投資の流入は総額で2024年の298億ドラムから2025年の345億ドラムへ増えた。同じ報道は国・部門ごとの流出も伝えており、総額は流出を差し引いた値とみられるが、統計委員会の原表は本稿では確かめていない。国・部門ごとには流入と流出が交錯している。たとえば情報技術の部門への米国からの投資は、102億ドラムから88億ドラムへ減った(19)。
この間、資金の出入りの中心にあったのは銀行部門である。IMFは、2022〜2024年に銀行部門と民間部門を通じて大量の資本が流入した一方、ほぼ同じ規模の資金が国外への投資に向かい、緩衝の役割を果たしたと分析している。戦争の開始から2年間で、銀行部門を通じた資本流入はGDP比7.7%に達したが、同部門の対外投資はGDP比8%を超えた。民間部門への資本流入の半分以上も、国外への投資に回されている(3)。つまり、流れ込んだ資金の多くは、国内の長期の投資に転じたのではなく、銀行の対外投資として国外へ向かった。IMFも、資本流入の満期変換(短期の資金を長期の貸出に回すこと)は小さいと記している(1)。
政府部門では、2025年3月に7.5億ドルのユーロ債が発行された(3)。IMFが2025年の資本流入の一つに挙げるドラム建て国債の購入は、7.31億ドルである(1)。対外債務の総額は、2022年の152.6億ドルから2024年の161.9億ドルへ増え、そのうち公的部門は67.0億ドル(2024年)であった。残る約95億ドルは民間部門の債務ということになる(筆者の計算)(3)。他方、対外債務のGDP比は2022年の76.4%から2025年の57.7%へ下がった(1)。
経常収支の側では、第一次所得の支払、すなわち国外の投資家への配当・利子や、国外居住者への雇用者報酬の支払が、2021年の8.7億ドルから2025年の18.2億ドルへとドル建てで2倍を超えた(20)。受取を差し引いた純額でみると、第一次所得は2025年に8.7億ドルの支払超である(表1)(1)。2021年の支払額と数字は同じだが、こちらは受取を差し引いた後の値である。ただし、GDPに対する支払の比率は、2021年の約6.3%から2022年に約7.7%へ上がったのち、2023〜25年は6%台で推移し、2025年は約6.2%である(世界銀行のGDPの系列による筆者の計算)(21)。経済の規模に比べて大きく増えたわけではない。また、この支払には、外国資本の企業が配当せずに国内に留保した再投資収益が含まれる。再投資収益は第一次所得の支払に計上されると同時に、同じ額が直接投資の流入として金融収支に計上されるので、資金が実際に国外へ出たことを意味しない(2)。公的債務の利払いも含まれる。内訳は本稿では確かめていないため、この数字から国外へ出た資金の大きさは判断しない。
海外上場・資金調達 — 利益・知的財産・雇用はどこに残るか
アルメニアに開発拠点をもちながら、本社と資金調達の場を国外に置く企業がある。一例として、アルメニア系米国人が創業した米国のソフトウェア企業ServiceTitanの登録届出書をみる。同社は米国デラウェア州で設立され、主たる事務所をカリフォルニア州グレンデールに置き、2024年11月18日に米国証券取引委員会に届け出て、Nasdaq Global Select Marketへの株式の上場を申請した(22)。同社は2024年12月13日、新規株式公開の完了に伴い定款を改定したと報告している(23)。届出書は、アルメニアを従業員と開発の委託先が所在する国の一つとして挙げ、事業上の課題として「アルメニアの成長しつつあるチーム」を含む世界の人員の管理に触れている(22)。子会社の一覧には、アルメニア共和国で設立された有限責任会社が含まれる(24)。
この構造では、アルメニアの子会社が親会社のために開発の役務を提供すれば、その対価は国際収支のコンピュータサービスの輸出として計上される。アルメニアに残るのは、主に技術者の賃金と、子会社の利潤・税、事務所の賃料などの国内の支出であり、製品の知的財産と、製品の販売から生じる利潤は国外の親会社に帰属する。これは筆者の推論であり、個々の企業の取引の条件は公表資料からはわからない。
アルメニアのIT産業の全体がこの形に近いかどうかについて、統計が示すものは限られる。サービス収支の節で述べたとおり、知的財産使用料の受取が小さいことは、その根拠にならない。手がかりになるのはGETの分類で、通信を除くITサービスの輸出のうち、2024年には94%が受託(アウトソーシング)型の業種に、4%が最終製品型、2%がコンサルティング型の業種に属する。GETはこの部門がほぼ受託型の活動によって動いているとみている(12)。ただし、この分類は企業の業種コード(NACE)ごとに類型を機械的に割り当てたもので、コンピュータプログラミング(62.01)とウェブサーバー上のデータ処理(63.11)は受託型に、ソフトウェアの出版(58.21、58.29)とウェブポータル(63.12)は最終製品型に数えられる。自社製品を開発する企業でも、62.01で登録していれば受託型に数えられるので、最終製品型の比率は過小に数えられている可能性がある。GET自身も、理解を深めるにはより詳しい調査が必要だとしている(12)。この数字は受託型が中心であることを示唆するが、その程度を確定するものではない。
国内での資金調達の場は限られている。前稿で述べたとおり、アルメニア証券取引所(AMX)の株式市場の規模はGDPの数%にとどまり、金融は銀行が中心である。資金を国外で調達し、開発を国内で行う形は、企業にとっては合理的な選択でありうる。ただし、製品の知的財産と利潤が国外の親会社に帰属する形が中心であれば、事業が拡大しても、国内に残るのは雇用と賃金が中心となる。
筆者の見方
以上の数字から、筆者は、2022年以降にアルメニアの対外経済活動から生まれた付加価値のうち、国内の新しい需要を生み出した部分は、主として経済全体の賃金と、流入した人々の支出を通じたものであり、知的財産や利潤の国内での蓄積を通じて新しい産業を生み出す経路は、まだ細いとみている。これは経済の構造についての見方であって、特定の企業や市場で取引される資産、為替相場についての見通しではない。
まず、輸出の膨張の大部分は再輸出であり、国内に残った付加価値は輸出額の伸びよりはるかに小さい。2025年の輸出のうち原産品は約45億ドルで、総額の5割強にとどまる(6)。また、IT産業は付加価値と雇用の両面で比重を高めたが、GETの分類では、通信を除くITサービスの輸出の大半が受託型の業種に属する(12)。この分類は業種コードの機械的な割当てによるもので、製品型を過小に数えうるため、受託型が中心であることを示唆するにとどまる。
需要の側では、賃金の伸びと移住者の流入が国内の需要を押し上げ、住宅価格の上昇はその現れであった(1)(3)。ただし、IT部門の賃金だけでは需要の増加を大きくは説明できない。GETの値から計算すると、IT部門の給与所得者の賃金総額は、2021年の約3.0億ドル(1.90万人×月1,323ドル×12か月)から2024年の約11.3億ドル(3.65万人×月2,578ドル×12か月)へ、約8.3億ドル増えた(筆者の計算)(12)。同じ期間に家計(対家計民間非営利団体を含む)の最終消費支出は99.0億ドルから177.3億ドルへ約78億ドル増えており(25)、IT部門の賃金総額の増加はその約1割にとどまる(筆者の計算)。需要を押し上げた主な経路は、IT部門に限られない経済全体の賃金の上昇と、流入した人々の支出であったとみるほうが自然である。2022年に到着した移住者のうち、1年以上滞在しておらず、その意図もない人々は、国際収支の上では非居住者として扱われ(BPM6の4.117項)、その国内での支出は旅行サービスの輸出に計上される(同10.86項)(2)。IMFが2022年以降の非居住者の到着をサービス収支の黒字の要因に挙げていることから(3)、この支出も国内の需要を支えた経路の一つであったと筆者はみている。建設や不動産、サービスへの需要という形で、付加価値は国内に波及している。
さらに資金の面では、IMFによれば、戦争の開始から2年間に銀行部門を通じて流入した資本(GDP比7.7%)を上回る規模が、同部門の対外投資に向かった(同8%超)(3)。資本流入の満期変換も小さい(1)。流入した資金のうち、国内の長期投資に転じた部分は限られるとみられる。
この見方は、確かめられる指標によって覆りうる。IT部門の付加価値のうち、賃金ではなく利潤(営業余剰)の占める比率が、統計委員会やGETの資料で継続して上がること。世界知的所有権機関(WIPO)の統計で、アルメニアの居住者を出願人とする特許出願が増えること。アルメニア資本のIT企業が国外の企業や知的財産を取得し、本社機能を国内に置く例が増えること。ここでいう対外投資は、第三国を経由して国内に戻る迂回投資や資本逃避とは区別する必要がある。国内のIT企業の再投資は、国際収支には外資系企業の再投資収益としてしか現れないので、企業統計の内部留保や、国内での設備投資・研究開発投資(総固定資本形成、研究開発支出)が継続して増えることで確かめることになる。業種コードではなく企業への調査によって製品型の企業の比率を示す資料が現れ、その比率が受託型の分類から推し量られるよりも高いこともそうである。これらがそろえば、付加価値が国内の資本と知的財産として蓄積され始めたとみるべきである。需要の経路については、経済全体の雇用者報酬(国民経済計算の所得面)の伸びが、家計消費の伸びのごく一部しか説明しないことがわかれば、国内の需要を押し上げた主因は賃金ではなく、流入した人々の支出や送金など別の経路にあったと読むべきである。反対に、IT部門の雇用と輸出が2024年と同じく横ばいのまま続くなら、2022〜23年の拡大は人の移動による一度きりの水準の変化であったと読むほうが自然になる。なお、これらの指標のうち、産業別の利潤の比率が統計委員会の公表資料から継続して得られるかどうかは、本稿では確かめていない。
ただし、この見方は統計の限界に強く左右される。IT産業の輸出について、GETの推計は国際収支ベースの値の約1.1〜1.7倍にあたり(筆者の計算)(12)(8)、IMF自身もIT企業の国境を越えた活動の把握を課題としている(3)。GETの推計は産業ベース、国際収支は取引の種類別であり、両者はそもそも概念が異なる。知的財産使用料の系列は2年分しかなく、暗号資産の取引は中央銀行の公表する国際収支の表に独立した区分を確認できない。送金の二つの統計は定義が異なり、直接投資にも国際収支と統計委員会の二つの系列がある。表1の2025年の誤差脱漏が8.2億ドルと、経常赤字の4割近くに達していることも、統計で捉えきれていない資金の流れがあることを示している(筆者の計算)。
統計と資料の読み方
本稿で用いた主な資料の所在を表3にまとめる。
表3 主な資料の所在
| 対象 | 資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 国際収支・国際投資ポジション・対外債務 | 中央銀行(cba.am)、IMFの審査報告書の表 | IMFの国際収支表は脚注でBPM5形式とされ、金融収支は純流入をプラスで示す(BPM6の標準表示と符号が逆)。IMFの表は作成時点の値 |
| 品目別・国別の貿易 | 統計委員会(armstat.am)、それを伝える報道 | 再輸出を含む総額。原産品の値は経済省の発表 |
| ICTサービス・知的財産使用料 | 世界銀行のデータベース(国際収支ベース) | ICTサービスは郵便・クーリエを含む。中央銀行の値と改定時点が異なりうる。知的財産使用料は2024年以降のみ |
| IT部門の付加価値・雇用・賃金・輸出 | GETの報告(税務当局のデータに基づく推計) | 業種(NACE)で集計した産業ベースの値で、国際収支とは概念が異なる |
| 銀行を通じた個人の送金 | 中央銀行の月次統計 | 性質を問わない送金の総額。国際収支の個人送金とは別物 |
| 外国投資(統計委員会) | 統計委員会(報道を通じて確認。原表は未確認) | 国際収支の直接投資とは別の系列 |
財の輸出入は再輸出を含む総額であり、国内で生まれた付加価値を測るには、原産品の輸出や、貴金属を除いた輸出を別に見る必要がある。「送金」「投資」には定義の異なる複数の系列があり、数字を比べる前に、どの系列のどの定義かを確かめる必要がある。IT産業の輸出も統計ごとに水準が大きく異なり、IT産業の比重についての判断は、どの統計を使うかに依存する。本稿は、英語で公表された資料とそれを伝える英語の報道に拠っており、アルメニア語のみで公表される資料は扱っていない。本カテゴリでは数値に閲覧日を付し、改定に応じて更新する。
参考文献
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