Kikuchi Associates

量子ファイナンス

テクニカル分析は何を測っているのか — 条件付き分布という見方

移動平均やチャートのパターンを統計の言葉に直すと、「過去の価格で条件づけたとき、その後の収益率の分布は変わるか」という問いになる。この問いを検定した古典的な研究と、規則の選び方そのものが結果を左右するデータ・スヌーピングの問題を整理する。

前回のノートでは、収益率には線形の自己相関がほとんど無く、価格の「向き」についてはランダムウォーク仮説が第一近似としてよく当たることを見た。それでも、過去の価格や出来高の動きから先を読もうとするテクニカル分析は、1世紀以上にわたって市場で使われてきた(1)。このノートでは、テクニカル分析が「当たるかどうか」を論じるのではなく、統計の言葉に直したときに何を測っていることになるのかを、古典的な研究から整理する。

二つの言葉、一つの主張

Campbell、Lo、MacKinlayは計量ファイナンスの教科書で、二つの文を並べている(2)。一つはテクニカル分析の言葉で、「支持線と抵抗線がはっきりしており、価格がその間にあって3分の1の戻しが見られるなら、近いうちに売りと買いの強い好機がある」という趣旨のもの。もう一つは計量経済学の言葉で、「最初の12個の自己相関の大きさと減衰の仕方、そしてBox–PierceのQ統計量の有意性は、株式の収益率に短い時間幅で予測できる成分があることを示す」という趣旨のものである。Lo、Mamaysky、Wangはこの対比を引いて、二つの文はどちらも「過去の価格には将来の収益率を予測する情報が含まれる」という同じことを言っているのに、多くの読者は片方をもっともらしく、もう片方を奇妙に感じる、と指摘している(3)。

用語の違いを外すと、テクニカル分析の主張が正しいためには、少なくとも次のことが成り立っていなければならない。時点tまでに観測できる価格(と出来高)から計算したある量をSとする。Sが特定の値をとったときの、その後の収益率rの分布は、Sを知らないときの分布と違う。式で書けば

p(r | S) ≠ p(r)

である。移動平均の交差も、ヘッド・アンド・ショルダーズのようなチャートのパターンも、このSの作り方の違いにすぎない。以下で見る研究は、いずれもこの不等式のどこかを検定している。

この不等式は必要条件であって、主張そのものではない。不等式が言うのは分布が違うということだけであり、売買で利益が出ることではない。この区別は最後にもう一度扱う。

線形の予測と、その外側

過去の値から将来を予測する方法には、確立した理論がある。Wiener–Kolmogorovの予測理論は、弱定常な過程について、過去の値の線形結合による予測のうち、二乗誤差を最も小さくするものを与える。S. N. Neftciは1991年の論文で、市場参加者がこの最適な線形予測よりも、形式の定まらないテクニカルの規則を好むのはなぜかを問うた。そのうえで、テクニカルの規則を形式的なアルゴリズムとして書けるのか、そして線形のモデルが使い残した価格の性質を、どのような条件のもとで規則がとらえうるのかを調べている(4)。

この問いの立て方から、一つのことがはっきりする。収益率の系列が弱定常なガウス過程(各時点だけでなく、時点をまたいだ同時分布が正規分布になる過程)であれば、過去を知ったうえでの条件付き期待値は過去の値の線形結合(無限の過去を使う場合はその極限)で書け、最適な線形予測と一致する。さらにこの場合、条件付き分布の全体が、線形予測を平均とし分散が一定の正規分布になる。過去の価格の非線形な関数をいくら持ち出しても、平均の予測も振れ幅の予測も良くならない。したがって、テクニカルの規則が最適な線形予測に何かを付け加えるとすれば、それは線形予測の誤差が、互いに相関はしなくても過去と独立ではない場合 — 非線形な依存がある場合 — に限られる。分布が正規分布からずれていることだけでは足りない(線形予測の誤差そのものが、過去と独立に同じ分布から出てくるなら、分布の形が正規でなくても、過去で条件づけた期待値は線形予測と一致する)。振れ幅の時間変動は、この非線形な依存の代表的な現れ方である。

前回のノートで見たとおり、実際の収益率は「相関はほとんど無いが、独立ではない」。とくに振れ幅は固まって現れ、収益率の絶対値の自己相関は正で、ゆっくりとしか減衰しない(5)。線形の自己相関に現れない依存が実際にある以上、非線形の規則が何かをとらえる余地は、理屈の上では残っている。問題は、それが検定で見えるかどうか、見えたとして何を見ているのか、である。

移動平均を検定する:Brock、Lakonishok、LeBaron(1992)

W. Brock、J. Lakonishok、B. LeBaronは、最も単純で広く使われている二種類の規則 — 移動平均の規則と、一定期間の高値・安値の突破(トレーディング・レンジ・ブレイク)の規則 — を、1897年から1986年までのダウ平均の日次データに当てはめた(6)。規則の数は合わせて26個である(1)。

方法の要点はブートストラップにある。Brockらは、ランダムウォーク、AR(1)、GARCH-M、EGARCHの四つのモデルを帰無仮説としてデータに当てはめ、ランダムウォークについては収益率そのものを、他の三つについては残差を再標本化して、人工の価格系列を多数作り、同じ規則を当てはめた(6, 1)。実際のデータで得られた結果が、人工の系列で得られる結果の分布のどこに位置するかで、有意かどうかを判断する。帰無モデルを取り替えることで、「規則がとらえたものは、そのモデルがすでに説明している構造なのか」を問えるのがこの設計の利点である。たとえばGARCH-Mは、振れ幅が時間とともに変わり、それが平均の収益率にも影響する、という構造を織り込んだモデルである。

Brockらは、買いの合図の後と売りの合図の後とで、収益率の平均にも振れ幅にも差があり、買いの合図の後の期間のほうが振れ幅が小さいこと、そしてその差は四つの帰無モデルのどれでも再現できないことを報告した(6)。言い換えると、合図の後の収益率の平均と振れ幅の差は、振れ幅の変動を明示的に組み込んだモデルからも再現されなかった、ということである。

ただし、Brockら自身がこの研究の弱点を認めている。移動平均の規則はいくらでも作ることができ、そのうちのいくつかは間違いなく「うまくいく」。データ・スヌーピングの危険は大きい。そして規則どうしの結果の依存を考慮して、すべての規則をまとめて検定することはできなかった、と(1)。

規則を選んだ時点で、検定は始まっている

データ・スヌーピングとは、同じデータを、推論やモデルの選択に何度も使うことをいう(1)。M. C. JensenとG. A. Beningtonは1970年に、この問題を次のように表現した。十分な計算機の時間があれば、乱数表の上でも「うまくいく」機械的な売買規則は必ず見つかる — その規則を見つけるのに使ったのと同じ表で検定してよいのなら(7)。

この偏りは、一人の研究者の行為から生まれるとは限らない。R. Sullivan、A. Timmermann、H. Whiteが指摘するように、長い年月のあいだに多くの投資家と研究者が無数の規則を試し、たまたま過去にうまくいった規則だけが注目され、語り継がれる。そうして生き残った規則だけを検定すれば、偶然を実力と取り違える(1)。

これを補正するために、H. Whiteは「Reality Check」と呼ばれる手続きを提案した(8)。考え方は、生き残った最良の規則を単独で検定するのではなく、それが選ばれてきた規則の全体の中に置き、「全体のうち最良のものでさえ、基準と比べて優れていない」という帰無仮説を、最大値の統計量の分布をブートストラップで求めて検定する、というものである。

Sullivanらはこの手続きを、Brockらの26個の規則を含む、約8,000通りの規則の集合に適用した。データはBrockらと同じダウ平均で、期間を1897年から1996年までに延ばしている(1)。結果は二つに分かれた。

  • Brockらの期間(1897〜1986年)では、「全体のうち最良の規則でさえ基準(現金を保有し続けること)と比べて優れていない」という帰無仮説が、データ・スヌーピングを補正したうえでも棄却された。Reality Checkが判定するのは「基準より優れた規則が全体の中に少なくとも一つあるか」であり、それがどの規則かまでは特定しない。評価には平均収益率と、全体のリスクで調整したシャープ・レシオの両方を使っている。
  • その後の10年(1987〜1996年)では、最良の規則についても、通常の有意水準では帰無仮説を棄却できなかった。また、取引費用と空売りの制約が結果に与える影響を小さくするため、SullivanらはS&P 500の株価指数先物(1984〜1996年の13年間)でも検証しており、そこでは規則が基準を上回る証拠は見られなかった。

この結果から言えるのは、1897〜1986年の標本で見られた差は規則の選び方だけでは説明しきれなかったが、標本の外ではその差が確認されなかった、ということである。差が時代とともに消えたのか、もともとその標本に固有のものだったのかを、この結果だけで区別することはできない。

パターンを検定する:Lo、Mamaysky、Wang(2000)

移動平均は式で書けるが、ヘッド・アンド・ショルダーズのようなチャートのパターンは、見る人によって見え方が違う。学術的な検証が進まなかった大きな理由はここにある、とA. W. Lo、H. Mamaysky、J. Wangは言う(3)。

Loらはこれを、ノンパラメトリックのカーネル回帰で解決しようとした。価格を「滑らかな非線形の関数と雑音の和」とみなし、カーネル回帰で雑音をならして滑らかな曲線を推定する。その曲線の極大と極小の並び方で、パターンを機械的に定義する。たとえばヘッド・アンド・ショルダーズは、極大・極小・より高い極大・極小・極大と続く五つの極値の並びとして書ける。こうして、ヘッド・アンド・ショルダーズ、ブロードニング、トライアングル、レクタングル、ダブルの五つの型について、それぞれ天井型と底型(ヘッド・アンド・ショルダーズでは逆形)を定義した計10種類を、38営業日の窓を1日ずつずらしながら検出した(3)。

検定の設計は、Brockらと違う。Loらは、売買の利益を検定すると、その利益がリスクを負ったことへの見返りにすぎないのかどうかを、資産価格の均衡モデルなしには判断できないことを理由に挙げ、より基本的な問いを立てた。パターンが現れた後の収益率の分布は、条件をつけない収益率の分布と違うか、である(3)。冒頭の不等式そのものの検定と言ってよい。

  • データ: 米国のCRSPのデータから、NYSE/AMEXの銘柄とNasdaqの銘柄を分け、1962〜1996年を5年ずつ七つの期間に区切った。各期間で、時価総額の五つの階級からそれぞれ10銘柄を無作為に選んでいる。
  • 比べたもの: パターンが完成してから3日後に始まる1日の収益率の分布と、条件をつけない1日の収益率の分布。収益率は銘柄ごとに平均を引き、標準偏差で割って揃えてある。
  • 検定: 十分位による適合度検定(カイ二乗)と、Kolmogorov–Smirnov検定。

Kolmogorov–Smirnov検定では、NYSE/AMEXの銘柄で10種類のうち5種類のパターンについて、Nasdaqの銘柄では10種類すべてについて、5%水準で二つの分布が等しいという仮説が棄却された。Loらはここから、いくつかのパターンは、とくにNasdaqの銘柄で、追加の情報を含んでいると結論している。ただし同時に、そのことはパターンにもとづく売買で利益が得られることを必ずしも意味しないこと、統計的な異常をとらえるのに最適なパターンが売買にとって最適とは限らないことも明記している(3)。

この研究にも限界がある。二つの検定の統計量の分布は、収益率が互いに独立で同じ分布に従う(i.i.d.)という仮定のもとで導かれている。Loら自身、この仮定は金融のデータでは妥当でないと認め、銘柄ごとに収益率を標準化したが、それで依存や不均一性が消えるわけではない、と書いている(3)。前節までで見た振れ幅の固まりは、まさにこの「依存」の一つである。

依存は、検定の数字だけでなく、結果の読み方にも関わる。Kolmogorov–Smirnov検定は、分布の位置(平均)の違いだけでなく、広がり(振れ幅)の違いにも反応する。パターンは直前の値動きの形から定義されるので、振れ幅が固まって現れる市場では、パターンの後の期間の振れ幅が全体と違っていても不思議ではない。その場合、棄却が示すのは振れ幅についての情報であって、向きについての情報とは限らない。なお、Loらは再標本化によるモンテカルロ実験で漸近分布による近似の精度を確かめているが、この実験は収益率を独立に引き直しているので、依存の問題には答えていない(3)。また、10種類のパターンはLoらがこのデータを見て選んだものではないが、長い実務の中で語り継がれてきたものであり、前節で見た「生き残った規則」の問題の外にあるわけではない。

何を測っているのか

ここまでの研究を並べると、次のようになる。

研究何で条件づけたか何と比べたか残る問題
Brockら(1992)移動平均とレンジ突破の26規則四つの帰無モデルから作った人工の系列規則全体をまとめた検定ができていない
Sullivanら(1999)約8,000通りの規則現金を保有し続けるという基準(規則全体の最良値の分布で評価:Reality Check)補正が及ぶのは集合に入れた規則の範囲まで。標本の外では差が見られなかった
Loら(2000)カーネル回帰で定義した10種類のパターン条件をつけない収益率の分布検定がi.i.d.を仮定している。棄却が振れ幅の違いによる可能性

これを踏まえると、「テクニカル分析は何を測っているのか」には、次のように答えられる。

  1. 測っているのは、過去の価格の関数で条件づけた、その後の収益率の分布である。 平均だけでなく振れ幅も対象になる。Brockらの結果では、差は平均と振れ幅の両方に現れていた。
  2. 「差がある」かどうかは、何と比べるかで決まる。 ランダムウォークに対して有意な差が、振れ幅の変動を組み込んだモデルに対しても有意だとは限らない。Brockらが四つの帰無モデルを並べたのはこのためであり、Loらの検定がi.i.d.を仮定していることが限界になるのもこのためである。
  3. 規則の選び方そのものが、検定の一部である。 何千もの候補から選ばれた規則は、選ばれたという事実だけで良く見える。これを補正すると、標本の外では差が見えなくなった例がある。
  4. 分布に差があることと、売買で利益が出ることは別の問題である。 Loら自身がそう書いている。売買の利益を検証した研究の多くには、データ・スヌーピング、規則や探索方法の事後的な選択、リスクと取引費用の見積もりの難しさ、という検定上の問題が残っていると、ParkとIrwinのサーベイは指摘している(9)。

テクニカル分析の主張を統計の問いとして書き直すと、過去の価格と将来の収益率のあいだに依存があるか — 線形の自己相関として現れるものも、そこには現れないものも含めて — という問いの一つの形になる。その依存を何で条件づけて、何と比べて、何通りの候補から選んだのか。この三つは、テクニカル分析に限らず、過去の価格から規則性を見出したと主張する研究を読むときの確認項目になる。


この連載は、量子ファイナンスと経済物理学の研究を、公開された論文から解説するものである。特定の市場や資産の見通しを述べるものではない。

参考文献

  1. Sullivan, R.; Timmermann, A.; White, H. Data-snooping, technical trading rule performance, and the bootstrap. The Journal of Finance. 1999, vol. 54, no. 5, p. 1647-1691. https://doi.org/10.1111/0022-1082.00163.
  2. Campbell, J. Y.; Lo, A. W.; MacKinlay, A. C. The Econometrics of Financial Markets. Princeton, Princeton University Press, 1997, p. 43-44.
  3. Lo, A. W.; Mamaysky, H.; Wang, J. Foundations of technical analysis: computational algorithms, statistical inference, and empirical implementation. The Journal of Finance. 2000, vol. 55, no. 4, p. 1705-1765. https://doi.org/10.1111/0022-1082.00265.
  4. Neftci, S. N. Naive trading rules in financial markets and Wiener-Kolmogorov prediction theory: a study of "technical analysis". The Journal of Business. 1991, vol. 64, no. 4, p. 549-571. https://doi.org/10.1086/296551.
  5. Cont, R. Empirical properties of asset returns: stylized facts and statistical issues. Quantitative Finance. 2001, vol. 1, no. 2, p. 223-236. https://doi.org/10.1080/713665670.
  6. Brock, W.; Lakonishok, J.; LeBaron, B. Simple technical trading rules and the stochastic properties of stock returns. The Journal of Finance. 1992, vol. 47, no. 5, p. 1731-1764. https://doi.org/10.1111/j.1540-6261.1992.tb04681.x.
  7. Jensen, M. C.; Benington, G. A. Random walks and technical theories: some additional evidence. The Journal of Finance. 1970, vol. 25, no. 2, p. 469-482. https://doi.org/10.1111/j.1540-6261.1970.tb00671.x.
  8. White, H. A reality check for data snooping. Econometrica. 2000, vol. 68, no. 5, p. 1097-1126. https://doi.org/10.1111/1468-0262.00152.
  9. Park, C.-H.; Irwin, S. H. What do we know about the profitability of technical analysis?. Journal of Economic Surveys. 2007, vol. 21, no. 4, p. 786-826. https://doi.org/10.1111/j.1467-6419.2007.00519.x.

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